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2010年 第4回総会 宣言文
20年後を見据えた活動を―未来はわたしたちのつながりの中
未曾有の金融危機から1年。2009年、アフリカ系アメリカ人として初の合衆国大統領に就任したバラク・オバマの“We can change”という言葉は世界を駆け巡りました。他方、日本は日比谷公園に創設された「派遣村」から2009年がスタートしました。派遣村は草の根の人々が自ら助け合いの姿勢を示すことで、厚労省の講堂を正月に解放させるというかたちで、政府に物申す象徴とすらなりました。
そして8月30日に行われた第45回衆議院総選挙では民主党政権が誕生し、自民党は結党以降初めての野党となりました。しかし3月以降に定額給付金は支払われたものの、日本経済は依然として、デフレ傾向に歯止めはかからず2009年11月に日本政府はデフレ宣言を行いました。経済悪化のなかで、労働相談の頻度は増し、内容も過酷になっているにもかかわらず、女性の経済、そして労働問題への取り組みは後手後手となっています。育休切りは相次ぎ、過酷な状態で働いているシングルマザーに対する母子加算手当ても2010年4月以降は予断を許さぬ状況です。
しかし2009年は人々の「このままではいけない」という思いが少しずつ可視化された1年でもあり、今後の日本の転機の年であったともいえます。例えば労働組合は僅かながら増加傾向にあります。とりわけ従来の日本では労働組合が皆無に近い職種の労組立ち上げが目立ちました。フリーランスの労働者達のインディユニオン、キャバクラに勤める女性達のキャバクラユニオンも結成され、女性達が中心となって活動を行っています。労働現場がセクハラ・パワハラといった暴力に満ち溢れていくなかで、様々な領域の働く人々が「もう黙ってはいられない」と声を上げはじめたのです。不可能と言われたセクハラ労災も、ACW2北海道の仲間の先駆的闘いによって切り開かれてきました。ACW2では、パナソニックの違法派遣による解雇通告に対し裁判闘争を行った佐藤昌子さん、合同酒精によるパート差別と企業ぐるみのパワハラに声を上げて戦い、勝利的な和解へと至った大橋康代さんの行動はまさに個人が声を上げることの意味を私達に伝えてくれました。
男女賃金差別裁判を闘ってきた兼松の闘いも、全面勝訴は勝ち取れなかったものの、労働基準法4条違反とした判例は、また一歩の前進で運動の成果です。しかし、一方で、京都女性協会の伊藤真理子さんの非常勤賃金差別裁判の完全敗訴は、私たちにまだ大きな課題を突きつけています。
企業ごとではなく横断的な誰でも生活できる賃金と同一価値労働同一賃金実現のためには、非正規雇用の賃金差別問題を忘れるわけにはいきません。CEDAWの選択議定書に関しては、早期批准に向けて全力で運動を展開してきました。同時に、賃金格差が広がり貧困率が拡大する中で、労働組合などを含む労働団体がこれまでの分断構造を乗り超えて、生活賃金の実現をめざし同一価値労働同一賃金の運動を新たに転換するような展望が、今まさに求められています。
しかし、いまだに使用者側はなおも「規制緩和」を主張します。人材派遣業界は今年8月、規制緩和を求める署名集めまで行いました。この動きに対して、ACW2では女性と貧困ネットワークと共催で8月に「オンナ・ハケンの乱」と銘打ちデモ、厚生労働省に業界ぐるみの署名の強制を取り締まるように要請すると同時に日本人材派遣協会への抗議申し入れを行いました。事務職派遣裁判の支援活動を続けるなかで、さらに「オンナ・ハケンの乱 パート2」として派遣という雇用形態で働く介護・看護労働者ならびにシングルマザーの過酷な現状の報告集会が行われました。
政権交代後、派遣法がようやく改正の動きが見えたのも束の間、派遣法改正の審議会答申では多くの女性が従事している事務職や介護職を含んだ「専門26業務」は禁止の除外とされました。派遣法改正を審議する部会では、派遣こそが「ワークライフバランスを実現させた働き方」であり「女性が望んだ働き方」だと使用者側委員は力説します。 これでは派遣労働者はもとより、1960年代から多数存在し、性別役割分業による「主婦労働の活用」として低賃金労働に従事させられてきたパート労働者はますます不可視とされてゆきます。「ワークライフバランス」を理由に社会保障もなく、低賃金労働に従事させる構造を変えていくために、女性達は更なる声を上げていく必要があります。”change”という言葉をほんとうに私達のものにするために、人らしく生きるための「つながり」を持ち、未来のビジョンを作り上げていく出発点に私たちはいるのです。
男女雇用機会均等法・労働者派遣法、そして国民年金第三号被保険者制度―この三つは1985年に生まれた法律です。そしてこれらの法律は三つ巴となり日本の女性達を分断しました(注1)。また、男女ともに労働時間など労働基準法の規制緩和は、雇用破壊をもたらし、もともと貧しかった女性達の経済状況をより悪化させました(注2)。また、私たちは裁判や団体交渉権を駆使して職場の改善を図ってきましたが、いまだ規制緩和に抗する大きな運動を作りきれないでいます
私たちは、時代の転換を感じながら、戦後50年間の女性労働運動を振り返り、20年後を見据えた政策・組織のビジョンを作り、それに向かって活動しなければなりません。そのためには先達からは、過ちも含んだ過去の歴史を学び若者に伝えることが必要です。今年は、「女性ユニオンを作ろう!キャンペーン」に着手しユニオンの可能性を伝えると同時に、相談業務や自助グループ的なネットワークを地道に広げること、種々のネットワークを広げるためにACW2自身に経済面・人的な面でのパワーアップを目指すこと、また雇用する―雇用される以外の「オルタナティブ」な働き方、非人道的な労働にNo!を言えるための生活保障の構築をしていく必要もあります。
そして一人の生活者として歩み、時に活動を通して自らの生活も「変わる」なかで、制度や法律や企業を「変える」力を与え合う「場」として、ACW2を共に作ってゆきましょう。
そのような場を夢見、動き出そうとするとき、私たちはバラバラの「一人ぼっち」ではなくなるのですから。
2010年1月25日 ACW2総会参加者一同
注1)「男女雇用機会均等法」については、否定的要素ばかりではないという指摘が総会内で提出された。ACW2内で「男女雇用機会均等法」の評価については引き続き議論の必要性がある。
注2)原案では「男女ともに労働時間など労働基準法の規制緩和は、雇用破壊をもたらし男性も含めた貧困の女性化を一層、推進するものになりました」が進んだという一文が明記されていた。しかし、総会内において「男性を含めた貧困の女性化」という表現は、用法的に誤りであるという指摘があり、その部分を「男女ともに労働時間など労働基準法の規制緩和は、雇用破壊をもたらし、もともと貧しかった女性達の経済状況をより悪化させました」に変更。